日本の美を求めて 東山魁夷

東山魁夷-私の最も好きな日本画家である。 中でも、欧州を旅行した際の一連の作品が好きだ。 中学生の頃だったと思う。美術館で、 「緑のハイデンベルグ」という作品を見てファンになった。本書には魁夷の随筆と講演が計5編綴られている。少年の日の思い出の…

幸福論 アラン

フランスの哲学者、アランは 「心優しき哲学者」 とも評されている。この本はルーアンの新聞に連載された 「プロポ(哲学断章)」を収録したもので、 計93ある。一貫してアランが主張しているのは、 幸福であるか否かは、周囲によるものではなく 自分自身…

モデラート・カンタービレ M・デュラス

モデラート・カンタービレは 「普通の速さで歌うように」という音楽用語である。この物語は人妻であるアンヌが情痴殺人事件を目撃したこと をきっかけに、酒場でショーヴァンと毎日事件について 語り合うという話である。アンヌは密かに町からの脱出を 夢見…

デミアン ヘルマン・ヘッセ

「デミアン」は1919年に世に出た「問題作」である。 これはヘッセ自身の自伝とも言うべき書であり、 主人公シンクレールと同じ「エーミール・シンクレール」作として 匿名で出版された。「主人公シンクレールが、明暗二つの世界を揺れ動きながら 真の自…

海からの贈り物 アン・モロウ・リンドバーグ

アン・モロウ・リンドバーグって誰?って思う人が多い のではないだろうか。単葉単発単座のプロペラ機でニューヨーク・パリ間を飛び、大西洋単独無着陸飛行に初めて成功。「翼よ、あれがパリの灯だ!」で有名な チャールズ・リンドバーグの妻である。アンは…

マダム・エドワルダ ジョルジュ・バタイユ

マダム・エドワルダ−バタイユ小説の最高傑作と言われている。これについては、コメントを控えようと思う。 とても短い小説なので、実際に読んでみて欲しい。 バタイユはほとんど読んでいないが、最高傑作と言われても おかしくない作品と思われた。その他に…

Noa Noa ポール・ゴーギャン

Noa Noa とは「かぐわしい香り」という様な意味のタヒチ語である。 ゴーギャンの作品の多くがタヒチの影響を強く受けていることは 有名である。ゴーギャンがヨーロッパ生活に見切りをつけてフランス領の タヒチへ辿り着いたのは、1891年のことである。 タヒ…

デュシャンは語る マルセル・デュシャン ピエール・カバンヌ

マルセル・デュシャンといえば、「泉」を 思い浮かべる方も多いのではないだろうか。 ともかく、20世紀の美術に多大な影響を与えた 芸術家であることは疑う余地がない。しかし、絵画を描いていたのは1912年頃までであり、 芸術家達から冷たい仕打ちを…

空の青み G.バタイユ

バタイユといえば、エログロ作家だと思い込んで、 ずっと倦厭してきた。 でも、いざ読んでみると面白い。はっきり言って 私はバタイユが好きになった。この作品「空の青み」は、バタイユの作品の中では 異色で地味な作品とされている。内容は、主人公が様々…

狐狸庵交遊録 遠藤周作

遠藤周作といえば罪の意識とキリスト教のイメージが強い。 しかし、狐狸庵シリーズは狐狸庵(作者)の生の姿が 垣間見れる。正直、遠藤周作は真面目なクリスチャンで堅い人だと勝手に 決め込んでいた私は驚いた。 悪戯好きで、仲間もあくの強い人ばかり。 今…

精神疾患とパーソナリティ ミシェル・フーコー

フーコーの思想は、ニーチェとハイデッガーの 影響を受けているといわれている。バタイユの影響も受けたと されているが、後にフーコーはバタイユを批判している。本書では、精神の医学と身体の医学との関係に注目している。 以下、印象的だった事柄について…

青少年のための自殺学入門 寺山修二

最初に断っておきますが、私は自殺を勧めるわけではありません。「死ぬ自由くらいは自分で創造しよう!」 寺山は本書でこう言っている。「自殺」の定義として、満ち足りているにもかかわらず、突然 ふと死にたくなるものを自殺としている。その典型的な例と…

嘔吐 J-Pサルトル

『嘔吐』(おうと、La Nausée)は実存主義者の小説家ジャン=ポール・サルトルが1938年に著した小説であり、サルトルの精神形成を知る上で欠かすことのできない、実存主義の聖書と言われている。 大学教授であった頃の作品で、彼の著作の中で最も良く知られ…

存在の耐えられない軽さ ミラン・クンデラ

普通の小説は、誰かの目を通して、時の流れに沿って 書かれるものである。だが、これは違う。 主人公が章によって異なるし、それに伴って時が逆行する。 非常に構成に凝った作品である。ミラン・クンデラはチェコスロバキアの作家である。 共産党体制下の閉…

さかしま ユイスマンス

三島由紀夫をして「デカダンスの聖書」と言わしめた 本作。澁澤龍彦のお気に入りの訳書でもある。 そんな「さかしま」とはどんな本なのか。主人公デ・ゼッサントは遺産を使い果たしてしまい、 パリ近郊の一軒家に移り住む。 家の中は書物から家具に至るまで…

幸福な死 カミュ

青年メルソーは不具者ザグルーの 「時間は金で購われる」という主張に 従い、彼を殺害し金を奪う。どこかで聞いた話である。 そう、カミュの書いた「異邦人」に そっくりなのである。幸福な死は、カミュ自身が生存中は 発禁としたため、読むことができなかっ…

青春ピカソ 岡本太郎

この本は、岡本太郎がピカソの作品を解説したものである。 しかし、ただ解説したのではない。この本のいたるところには 芸術に対する岡本太郎の姿勢がちりばめられている。岡本太郎の母は作家の岡本かの子。父は漫画家の岡本一平。 生涯独身を通したが、秘書…

アンナ・カレーニナ(中)(下) トルストイ

再開したキチイとリョーヴィンは皆に祝福されて結婚する。一方、アンナは夫カレーニンの離婚の申し出を息子への愛から 拒絶し、ヴロンスキーと外国旅行へ旅立つ。 帰国したヴロンスキーは自分の領地の農地経営に乗り出すが、 それは、機械化された見事に近代…

サロメ ワイルド

ワイルドの名を世間的に最も華やかにしたのは、戯曲、特に喜劇 であった。特に「真面目が大事」は大成功をおさめた。 「サロメ」はこの喜劇作品が執筆される直前にパリ滞在中に書かれた ものである。しかし、イギリスでは上演さえ許されなかった。 しかし、…

はつ恋 ツルゲーネフ

ツルゲーネフは、地主貴族文化が崩壊し始めた頃に、もっとも大切な 精神の形成期を、ほかならぬ貴族の子弟として迎えました。 その運命的な契合はツルゲーネフの人生観の上にも作風の上にも 消しがたい烙印を押しています。更に、母親は気丈でヒステリックで…

アンナ・カレーニナ(上) トルストイ

文豪トルストイが、モラル、宗教、哲学のすべてを注ぎ込んで 完成した不朽の名作の第1部。18歳の少女キチイは、ヴロンスキーからの求婚を信じて、 古くから付き合いのあるリョーヴィンからの求婚を断ってしまう。 しかし、ヴロンスキーはモスクワ駅へ母を…

自我と無意識 C.G.ユング

ユングが多年にわたる経験から得た所見をできるだけ平易に 解説した本。ペルソナ、アニマ、アニムス、自己といったユング 心理学の基礎概念について、丹念に説明してある。本書の中で、ユングは人類には共通の無意識が存在すると 指摘している。それを集合的…

彼らの流儀 沢木耕太郎

コラムでもなく、エッセイでもなく、ノンフィクションでもなく、 小説でもない―そんな33の短編集。 それぞれの登場人物には登場人物なりの「流儀」が描き出されて いる。この作品の素晴らしいことは、「起承転結」ですべての短編が 書かれていること。 そ…

武装解除 伊勢崎賢治

職業:「紛争屋」 職務内容:多国籍の軍人・警官を部下に従え、軍閥の間に立ち、 あらゆる手段を駆使して武器を取り上げる。 という変わった仕事をしている伊勢崎の本。彼の専門は復興期のDDR(Disarmament、Demobilization& Reintegration :武装解除、…

水いらず サルトル

「水いらず」をはじめとするサルトルの短編集。 中でも「壁」が秀作である。 「壁」はスペイン内乱を取材したものであり、戦乱時に執筆された ものである。 「壁」とは夜明けとともに死刑囚がならぶものであり、同時に 実存哲学の限界状態を示す。 実存主義…

変身 カフカ

グレーゴル・ザムザは、ある朝目を覚ますと自分が巨大な毒虫に 変貌しているのに気づく。彼は、血を分けた家族からさえも 疎まれる存在となる。カフカの文学の特徴は、徹底的に写実的な手法によって、純粋に 象徴的なものを表現する点にあり、ヨーロッパのニ…

終りし道の標べに 阿部公房

阿部公房幻の処女作。 青年公房の生身の思索は17年後書き換えられ、もはや読むことが できなくなってしまった。 本書は処女作の仮名遣いや旧字体を新字体に変換したものである。 親友が中国人たちとともに盗みを働き、結核性の肋膜炎となり 死亡した事実を…

百頭女 マックス・エルンスト

「ひゃくとうじょ」って読むらしい。 マックス・エルンストはドイツ出身のシュルレアリズムの 代表的な作家であり、コラージュやフロッタージュといった 新たな技法を取り入れた。 緒言ではシュルレアリズムの思想家、アンドレブルトンが 寄稿している。本書…

雪 オルハン・パムク

日本ではあまりなじみのないオルハン・パムクについて少々 解説したい。 本書はオルハン・パムクの7作目の作品であり、最初で最後の 政治小説と言われている。 代表作としては他に「わたしの名は紅」がある。2007年度 ノーベル文学賞受賞。物語の舞台は…

われ笑う、ゆえにわれあり 土屋賢二 

この本は娯楽本である。 よって公共の場で読むことはお勧めしない。 なぜなら、ぷっと吹き出してしまうからである。作者は御茶の水大学の哲学科の教授である。 ゆえに、哲学っぽい内容ではあるが、その屁理屈が笑える。 特に餃子の話は面白い。 また、タバコ…