はつ恋 ツルゲーネフ

ツルゲーネフは、地主貴族文化が崩壊し始めた頃に、もっとも大切な
精神の形成期を、ほかならぬ貴族の子弟として迎えました。
その運命的な契合はツルゲーネフの人生観の上にも作風の上にも
消しがたい烙印を押しています。

更に、母親は気丈でヒステリックで野生的な、いわば典型的なロシア
の女地主でした。
一方、父親は母よりも6つ年下であるばかりか、貴族とは名ばかり
のほとんど破産に瀕した大佐にすぎず、性格も冷ややかで、弱気で
優柔で、おまけにすこぶる女好きな伊達者であったと伝えられている。この女暴君と伊達者との間に生まれたのがツルゲーネフであった。

こうした血統上の痕跡は、文学作品の面から言うと、この「はつ恋」
に最も鮮やかに現れているといわれています。

−女の愛を恐れよ。かの幸を、かの毒を恐れよ−
これがはつ恋での父から息子への遺言である。