終りし道の標べに 阿部公房

阿部公房幻の処女作。
青年公房の生身の思索は17年後書き換えられ、もはや読むことが
できなくなってしまった。
本書は処女作の仮名遣いや旧字体新字体に変換したものである。
親友が中国人たちとともに盗みを働き、結核性の肋膜炎となり
死亡した事実をモデルにしたといわれている。

読んでみて、非常に驚いた。
阿部公房といえば、独特の歯切れの良い文章が持ち味であると
思っていて、それは公房の天性のものだと思っていたのだ。
ところが、処女作はいたって普通なのである。つまり、あの
歯切れの良さは後に彼が努力して獲得したものだったのである。

阿部公房作品の多くは、社会的な存在をさまざまな形で失う。
終りし道の標べにでは、存在そのものを生死というより直接的な
形で問うている。