さかしま ユイスマンス

三島由紀夫をして「デカダンスの聖書」と言わしめた
本作。澁澤龍彦のお気に入りの訳書でもある。
そんな「さかしま」とはどんな本なのか。

主人公デ・ゼッサントは遺産を使い果たしてしまい、
パリ近郊の一軒家に移り住む。
家の中は書物から家具に至るまで、デ・ゼッサントの
趣味趣向が細部まで行き渡る「人口楽園」であった。

延々と綴られるデ・ゼッサントの趣味、すなわちうんちく。
人との交わりを絶ち、デ・ゼッサントは人工楽園の中で
幸せに暮らす。
しかし、持病の神経症が悪化し、生命か人工楽園かの
選択を迫られる―。

かなり癖の強い作家と聞いていたが、読んでみたら
それほどでもなかった。
ただ、好き嫌いは激しく分かれると思われる。

幸福な死 カミュ

青年メルソーは不具者ザグルーの
「時間は金で購われる」という主張に
従い、彼を殺害し金を奪う。

どこかで聞いた話である。
そう、カミュの書いた「異邦人」に
そっくりなのである。

幸福な死は、カミュ自身が生存中は
発禁としたため、読むことができなかった。
しかし、異邦人に先立って書かれた
この作品は、既に不条理哲学を如実に
あらわしている。
また、カミュらしい文章の巧さが際立っており、
一読の価値がある。

しかし、内容自体は本人が気に入らなかったのは
当然と思われる面が多々ある。
特に、たくさんのエピソードを詰め込みすぎて
しまったため、内容が発散してしまっている。
カミュの好きな方は、異邦人の踏み台となった
幸福な死を読んでみてはいかがだろうか。

青春ピカソ 岡本太郎

この本は、岡本太郎ピカソの作品を解説したものである。
しかし、ただ解説したのではない。この本のいたるところには
芸術に対する岡本太郎の姿勢がちりばめられている。

岡本太郎の母は作家の岡本かの子。父は漫画家の岡本一平
生涯独身を通したが、秘書であった岡本敏子(故人)を養女にした。事実上の妻である敏子は太郎没後、多くの著作を通して太郎の再評価
に貢献した。また、行方不明であった大作「明日の神話」発見にも
貢献した。

岡本太郎ピカソの作品との出会いから始まり、ピカソへの挑戦を
経てピカソ作品の解説に至る。ピカソが貧乏なため、安い絵の具で
ある「青」を多用した青の時代の逸話は面白かった。
最後にはピカソ岡本太郎の対話が収録されている。

岡本太郎の代表作といわれる太陽の塔ピカソの絵に似ているという指摘がある(ヴァロリスの平和の殿堂のための戦争 1952年)。
このことからも、ピカソ岡本太郎に多大な影響を与えたことは
明らかである。そういった意味でも是非一読していただきたい。

アンナ・カレーニナ(中)(下) トルストイ

再開したキチイとリョーヴィンは皆に祝福されて結婚する。

一方、アンナは夫カレーニンの離婚の申し出を息子への愛から
拒絶し、ヴロンスキーと外国旅行へ旅立つ。
帰国したヴロンスキーは自分の領地の農地経営に乗り出すが、
それは、機械化された見事に近代的なものであった。

ヴロンスキーの愛がさめつつあることを悟ったアンナは、彼と
ともにモスクワに旅立つが、社交界を捨てたアンナにとって、
モスクワでの生活は辛いものであった。アンナは絶えずいらいらし、
ヴロンスキーと主導権争いを繰り返してヴロンスキーの愛を失って
いった。ついに嫉妬と罪の意識に絶えられず、混乱したアンナは、
ヴロンスキーに復習するために悲惨な鉄道自殺を遂げる。

無神論者であるリョーヴィンは、長い思索の末、ついに自分なりの
信仰を見出す。

この作品を執筆中にトルストイは母親代わりの婦人と、自分の妻を
亡くし、死という深刻な人生の苦悩を味わっている。その姿は
リョーヴィンに投影されているように見える。

サロメ ワイルド

ワイルドの名を世間的に最も華やかにしたのは、戯曲、特に喜劇
であった。特に「真面目が大事」は大成功をおさめた。
サロメ」はこの喜劇作品が執筆される直前にパリ滞在中に書かれた
ものである。しかし、イギリスでは上演さえ許されなかった。
 しかし、戯曲としてはこれほど多く読まれている作品も珍しい。
ことに外国語に訳されている点では、他にはほとんどその比を
みない。日本語だけでも十数種の訳があるらしい。

美しい王女サロメは、預言者カナーンに恋をし、月光の元での
宴の席上、7つのヴェイルの踊りとひきかえに,預言者カナーンの生首を所望する。
王エロドはサロメの妖しい美しさの虜であるがゆえ、預言者
カナーンの首をしぶしぶ承知する。
王女サロメは喜んで、ヨカナーンの生首に口づけする・・・。

サロメ新約聖書の記述に基づいている。ヨカナーンは洗礼者ヨハネ
であり、エロドはイエスの誕生をおそれて幼児虐殺を行ったヘロデ
の子である。

はつ恋 ツルゲーネフ

ツルゲーネフは、地主貴族文化が崩壊し始めた頃に、もっとも大切な
精神の形成期を、ほかならぬ貴族の子弟として迎えました。
その運命的な契合はツルゲーネフの人生観の上にも作風の上にも
消しがたい烙印を押しています。

更に、母親は気丈でヒステリックで野生的な、いわば典型的なロシア
の女地主でした。
一方、父親は母よりも6つ年下であるばかりか、貴族とは名ばかり
のほとんど破産に瀕した大佐にすぎず、性格も冷ややかで、弱気で
優柔で、おまけにすこぶる女好きな伊達者であったと伝えられている。この女暴君と伊達者との間に生まれたのがツルゲーネフであった。

こうした血統上の痕跡は、文学作品の面から言うと、この「はつ恋」
に最も鮮やかに現れているといわれています。

−女の愛を恐れよ。かの幸を、かの毒を恐れよ−
これがはつ恋での父から息子への遺言である。

アンナ・カレーニナ(上) トルストイ

文豪トルストイが、モラル、宗教、哲学のすべてを注ぎ込んで
完成した不朽の名作の第1部。

18歳の少女キチイは、ヴロンスキーからの求婚を信じて、
古くから付き合いのあるリョーヴィンからの求婚を断ってしまう。
しかし、ヴロンスキーはモスクワ駅へ母を迎えに行き、母と同じ
車両に乗り合わせていたアンナ・カレーニナ夫人の美貌に心を
奪われてしまう。
アンナも夫カレーニン愛のない日々の倦怠から、ヴロンスキーに
惹かれていき、やがて二人は激しい恋に落ちる。
ヴロンスキーの子供を身ごもったアンナは、夫カレーニンに、
ヴロンスキーとの関係を告白する。

一方アンナとヴロンスキーの関係を知ったキチイは、ショックの
あまり、寝込んでしまう。キチイのことを知ったリョーヴィンは
侮辱されたと憤る。