悪女について 有吉佐和子

有吉佐和子はすごい作家である。
女実業家の富小路公子は自殺か、他殺か謎の子を遂げる。
本編では冒頭で富小路公子は死んでしまい、以後全く
登場しないばかりか、どんな人であったかも謎である。彼女に
関わった２７人の男女へのインタビューという形で物語りは進行
している。しかも、有吉佐和子はこの２７人の語り口を完全に
書き分けているからすごい。
インタビューで明かされていくのは、公子の人生が嘘で塗り固め
られており、同時に複数の男を手玉にとっていたということ。
しかも、周囲の人間は全く気づかないどころか、「そんな人では
ない」と言う。本当の悪女と言うのは悪女とは気づかれないものなの
かもしれない。
インタビューが進むにつれて明白になるのは、公子の孤独感である。
誰も彼女が孤独であったとは明言していないが、作品全体を漂う。
ミステリーのようで、ミステリーでない名作である。